談林サロン

DANRIN SALON

<小説・密厳國紀>霧生丸編⑦「僧侶衆の旅2」

2020/07/23

集落の中央の何か所かで火がおこされた。
薬湯を煎じる匂い。なにか料理をする匂い。きのこや山菜を料理する火の匂いや、鳥や鹿を焼く匂いもする。
ここは山の民の集落なのだ。
山の民は木々の間伐や切り倒して川に運び筏を組んで都まで届ける。
熊や猪、兎や鳥なども採り料理する。冬の保存食も作るし毛皮や爪、牙を使ってさまざまな道具も作る。
全て神仏からの賜り物なので、丁寧に供養してから捌く。少しも無駄にしない。
民の長が青顧の横に座り髪の毛にそっと手を乗せた。
「私は虻田(アプタ)と申します。」と丁寧な言葉で話しかけてきた。
「そうだまだ名を聞いてなかった。」
「名前は何という。」

「青顧と申します。」
「せいこ、良い響きだ。」
「文字はわかるか」
「はい青に顧、私が生まれる前に父が私の安産祈願に聖なる泉に行ってました。父が祈り終わり帰るおり、何か池の気配を感じて振り返りました。すると池の中央が泡立ち青い美しい清水が湧き上がったそうです。今まで見たこともない美しい青の色に父は吉祥と思い青顧と名付けて頂きました。」
「良い名だな。」
「有難うございます。」
「青顧は忍野の者だ。」
「そうでしたか。よくご無事で。あの村のことはここまで伝わっております。もう安心なさい。鑁様の側にお仕えしてれば悪鬼も退散されますからな。」と少し微笑んで長はまた優しく手を頭において撫でた。

「どうやら青顧は目が見えない。しかし心眼なのか景色も見えておる。人の心も見えるようだな。私と会ったのも大きな縁、楽しみだ。」

「長虻田よ。良い熊をとったのか。」
「ああ、あれですか。あれははるか北の奥、彼の地の仲間が届けてくれたものです。彼の地の者もここと同じで熊を狩れば必ず神仏に感謝し熊の生命の力を余すところなくいただけるよう熊にも感謝と生命を私達の中に移す事を祈ります。不思議ですが私達が祈りを捧げた熊の肉は驚くほど柔らかく美味で胆は素晴らしい薬になります。毛皮もいつまでも生き生きと輝き水を弾き羽織ればどんな寒い冬のよるでも暖かく過ごせます。」
「少し胆を貰いたいが。」
「勿論でございます。鑁様のために一番良い熊胆(ゆうたん)や薬草貰い数々揃えておきました。」
「有難い。」と言って鑁様は手を合わせた。
「もったいのうごさいます。民たちが何度鑁様や鑁様の合わせるお薬に助けていただいてることか。」
「青顧よ、運べるか。」
青顧は力強くそして嬉しそうに頷いた。