談林サロン

DANRIN SALON

<小説・密厳國紀>霧生丸編⑥ 「僧侶衆の旅1」

2020/07/23

青顧の鍛え上げた足でもうっかりすると遅れをとりそうになる。常に要の僧の横を進む。足を滑らせそうになったり躓きそうになる度に、襟首を掴まれて身体が浮く。
まるで子猫のクビを持ち上げるように軽々と持ち上げられる。それほど腕力(かいなちがら)が強い。
転びそうになることがわかるのか見えるのか、つよい腕力とともに驚かされる。

僧侶衆の隊列も面白い。
三々五々のんびり歩く時も有れば、前方の二人がいつのまにか消えて遥か先に進んでいたかと思うと、一番後方にいつのまにか戻っている。

時には全体が小さく纏まり要の僧を守るような緊張感を感じる。

里の空気から山の空気に変わってしばらくすると山の中の小さな集落に着く。
出迎える民が多い。
皆『鑁様お帰りなさいませ。」「鑁様お疲れ様でした。」「鑁様足を洗いましょう」と歓迎されている。
要の僧が鑁様だとわかる。他の僧たちも民達と親しく、集落の様子や病の者の様子を気遣ったりしている。
民達は他の僧の笈摺を預かったり、草鞋の交換や脚絆手甲を解くのを手伝ったり甲斐甲斐しく働く。
女達や子供達も嬉しそうに集まってくる。
遠い地の話を聞きたがる者、遠方の仲間の消息を聞く民、皆楽しそうに集まってくる。

何人かの僧は遥か遠くに姿を見て消したようだ。何かから守るように。