談林サロン

DANRIN SALON

<小説・密厳國紀>霧生丸編⑧「僧侶衆の旅3」

2020/07/23

長虻田は青顧に語りかけた
「鑁様のお山とその周りの集落は足りないものを分け合い一つの家族のように暮らしています。
多くのお山は年貢や労役を求めてきます。しかし鑁様のお山は、すべてお互い様との教えで互いに支え合っている、とても有り難いお山です。」
「そして様々な事をお教え頂いております。狩りの仕方、鉱石の見分け方、掘り出し法。古のお山を開かれた海様の教えが今も生きております。」「このお山と集落一帯には今も海様がいらっしゃると思えることが時々あります。」
空には星が輝き大きな北斗七星が地平から空に向かって立ち上がっている。

翌朝、石の擦れる音で目覚めた。
近くて鑁様が薬研で薬を合わせている。
「起こしてしまったな。まだ休んでいてよい、朝餉になれば起こすゆえ。」
しかし青顧は起き上がり薬研の横に座りこむ。
そばには様々な薬のもとになる物が
何段にも敷き詰められた抽斗がある。
色々な匂いが立ち上ってくる。
「香りが気になるか、手にとって嗅いでも良いが決して舐めてはいけない。毒もあるからな。」
薬箱に毒と青顧が思うと、その心を読んだように
「すべて使い方次第なのだ、薬湯も薬石も使い方、合わせ方では毒になり、毒も調合では良い薬に変わる。」
「いま合わせてるのは熊の胆(くまのい)だ、熊の胆と薬草を合わせる混ぜ薬だが皆熊の胆と呼んでいる。」
「青顧はことのほか香りに鋭いようだ。お前に臭い袋を作ってやろう。」
鑁大阿は腰に下げた薬袋と懐中の香合から沈香と薬草を混ぜて藍色の手拭いの端を切って包み込んだ。
糸と針で縫い合わせ首から下げられるよう紐のついた小さな玉になった。
それを青顧の手に載せた.
手の中からいい香りが広がる。自分の香りのように懐かしい。
「この香りがお前を守る、大切にすると良い。」
青顧は紐を手に取り首にかけてみた。
かけてみると手にした時とは異る香りになっていた。より力強い大きな山脈のような揺るぎなさ。