談林サロン

DANRIN SALON

<小説・密厳國紀>霧生丸編⑤ 「青顧2」

2020/07/23

青顧もこの院に 11歳で入った。
忍びの郷に生まれ厳しい仕置き受けながら育ち全ての技を巧みに操れるにまで成長していた。
これからという時に敵の忍びの焼き討ちで村は焼かれて壊滅し親も兄弟も村人も一人残さず惨殺された。
青顧はその時修行の仕上げの行に入っていた。気配を一切消して断食断眠行を地中深い石室の中で行っていた。
まだ歳の割には身体も小さかったのも幸いしたのだろう。その為敵の忍にも気づかれず助かった。
石室から出た時は村はすっかり焼かれた後で残り火もなくかなりときがたっていたことが伺えた。
凄惨な光景に息を呑み家族や仲間を探したが
見分けがつかないほどに身体が焼かれていた。
血の気が下がり全身が泡立ち身の毛が総立ちになり腰から崩れた。
手が地に触れたと思ったが殺された人の眼だった。
今まで感じたことのない激しい憤り恨み悲しみで鼓動が早くなり頭に血が上り自分の眼が飛び出るかと思うほどだ。
眼に激しい痛みを感じたその時、視界から光が消えた。



何かの術に嵌ったのか、気象の天変か。
自分の五感が何か違う、視力が消えてしまったようだ。
しかし見える。いや見えている。
前とは異なる見え方で。波動?
物の形が己の心持ちで色が変わるのか、いま揺れ動く心のように見えてくる風景の色が揺らいでいる。
息を調えて心を沈める。暫くしていると景色が消えているのが分かる.どうやら目蓋を閉じれば景色は消える。目蓋を開けると景色が映る。
今は普段見るような見え方に見える。.しかし凄惨な景色を思い憤怒何わき起こると景色も燃え爛れるように変わる。まただ息を調えて眼を閉じる。
耳を澄ますと己の後ろも頭上も足下のかなり広い範囲の様子もわかりる。
空を跳ぶ鳥の種類からよるが来るのを繁みで待つオオカミの群れ、その獣の心もわかるようだ。
狼に意識をむけると狼もわかるのか怪訝な面持ちで顔をこちらにむけてしきりにあたりの臭いをかいでいる。
喉の渇きを覚えて川を思い出すと、川に意識を向けると狼は安心したように頭を地につけた。
いつも水を汲むせせらぎの水量までわかる。
心を遥か彼方まで拡げると気象の移ろいもわかるようだ。
明日の夜には気象が変わり雷雨になることもわかった。

自分の感覚に慣れてきたのでゆっくり立ち上がり川に向かった。
はじめはぎこちない歩みだったがだんだん感覚と外界がしっかりと繋がり川のほとりで身を清め薬草をを摘み芋を掘って芋かゆをつくり少しずつ食べた。

村に戻ると僧の一団が焼かれた遺体を集め丁寧に荼毘にふしてから埋葬していた。
青顧は自分が学んだ真言が聞こえ来るので心が安らいだ。
中央の僧の身なりは旅衣(たびころも)で質素だが、その僧が一群の僧の要である事はわかった。
その僧が結ぶ手の印も全て学んでいた。
いつしか一緒に印を結び真言を唱えていた。
一心不乱に真言を唱え続けた。

気がつくとその僧が目の前に立って、
「付いて参れ。」と一言。
その声の深みにと温もりにただ頷いて僧団に付いて旅をした。

皆驚くほど歩くのが早い。金剛杖を手にしている僧、錫杖を手にする者、笈摺(おいずる)はすべて僧が背中におっている。

一体どこに向かうのか。

金剛杖・・・杖としての機能はもちろん、草むらのマムシや野犬と戦う武器にもなる
錫杖・・・先端に錫(すず)がついた杖。修行中、音を出して猛獣や毒蛇を近づけない効果をもつ。
笈摺(おいずる)・・・背に負う、葛籠で経本や足袋の道具がしまってある。